好奇心と無心の先は…

臆病で慎重派。 間違いなく僕という人間の大半を占めている性質。

 

でも人って本来、もっといろんな面を複雑に持ち合わせているんじゃないかと思う。

僕自身がそうだから。

 

僕の残りの性質の中には、好奇心を掻き立てられると、ちょっと無謀とも思われる行動を起こすという、正反対の性質が潜んでいる。

 

そのせいで、しなくてもいい苦労をしたり、敢えて苦しい立場に追い込まれたりすることもあるんだけど、そのどれもが、それなりに貴重で面白い体験だったりするんだ。

そのうちの一つが、二十歳の頃、ダンスで舞台に立ったこと。

 

実は今でも消してしまいたいくらいぶざまな経験なんだけど、それと同時に物凄く貴重な経験。

 

 

その当時、何故か急に「マイケル・ジャクソンかっこいい!僕もあんな風に踊ってみたい!」って思っちゃったんだよね。

バカだね…。

それまでダンスなんてまるでやったことも無いのに、出来るか出来ないかより強かったのが、「やりたい!」って気持ち。

 

定期公演などをやっている団体のダンス教室に入会して、普通は週2~3回のところを毎日レッスンに通い始めた。

僕は、やるとなると徹底してるんだ。

 

そして2か月後、6人の審査員が見守る中、公演に出演するダンサーのオーディションで2次試験まで残り、最終的に37人中5人の中に残り、見事合格だったんだけど…。

そのあとが大変だった。

 

 

そこにいるメンバーは、共に合格した新人も含めて、みんな子供の頃から訓練されているプロ集団。

素人は僕1人だけ。

 

いざ舞台に向けたレッスンが始まると、それまでやっていたものとはまるで違う高度な内容で、身体の固い僕にはウォームアップの動きすら高難度…。

全くついて行けなかった。

 

僕に向けられるのは、氷のように冷たく、矢のように刺さる視線の数々。

僕はスタジオの中で、完全に孤立した。

 

そもそも何で合格したのかわからないけど、自分の意志で飛び込んだのだから、僕はとにかく腹をくくってやるしかなかった。

 

とは言っても何かの勘違いで合格させてしまった演出家を含め、みんなが僕を辞めさせたくて仕方ないという空気をガンガン投げつけてきたんだ。

かなりキツイ空気で、完全に心は折れてたんだけど、ここで辞めたら、いじめに屈して辞めることになる。

 

それって一生心に影を落とすことになるから、絶対に避けたかった。

そこで僕は敢えてスタジオの近くに引っ越しをして、逃げられない状況を作ったんだ。

 

 

落ち込んでる暇なんて無い。

出来ないなら出来るように僕が努力するしかない。

人の目なんて気にして萎縮してる場合でもない。

 

孤独感、無能な自分に対する苛立ち、後戻りできない不安….いろんな思いを封印して、ひたすら無心になって毎日のレッスンに打ち込んだ。

今思えば、僕がいるせいで、プロの舞台を台無しにする可能性だって十分にあったのに、全てに決定権があった先生は、最後まで僕をクビにすることはなかった。

 

本来、凄く厳しくて妥協なんて絶対にしない人。

でも、その人が不思議な事に、最後まで黙って見守ってくれてたんだ。

そしていつの間にか、最初の頃あんなに冷たかったメンバー達の殆どが、僕を応援してくれていたんだ。

 

その後、僕が契約したその舞台。 実力の差は埋められないままだったけど、最後までやり切る事が出来た。

当初は、先生も辞めさせようと考えていたんだと思う。そんな空気が確かにあった。

でも、完全に浮いた状況の中でも、あまりにも無心にひたむきに取り組む僕の姿に、根負けしてくれたのかもしれないね。

 

その姿は、本当に惨めでぶざまで、どうにもならないものだったはず。

だけど、「熱意」が人の心を動かした瞬間だったのかもしれない。

勿論、その頃の僕は、ただ必死で、何もわかっていなかった。

先生はただただ怖いだけの存在だったし…。

 

 

動機からしてちょっと恥ずかしいから、自分でも封印してた経験。

それを最近になって思い出してみたら、今だからこそいろんなものが見えてきたんだ。

 

 

身の程知らずにマイケル・ジャクソンに憧れた(笑) ことで、本来僕のような素人が上がるはずの無い大ホールの舞台で、スポットライトを浴びたこと。

これって、誰もが経験出来る事では無い。それは、かなり貴重で面白い体験だったって事。

 

とにかく怖いだけだと思っていた先生が、実は皆との間で盾となって、僕を守っていてくれたであろう事。

 

そして何よりも、好奇心と無心の先には、夢の実現が待っているかもしれない事。

 

 

だから誰もが自分に限界なんて設けたら勿体ないんだ。

行動すれば、確立0パーセントだと思っていた事だってやり遂げられるかもしれないんだから。

 

 

封印したかった出来事は、今になって僕にいろんな事を教えてくれる。

今も挑戦して行く気持ちが萎える事がないのは、あの出来事があったからなんだと感じている。

 

あの頃は、悔しくて、苦しくて、どうしようもなかったけど、

あの時僕は確かに、かけがえのない素晴らしい体験をしていたんだね。🍀